映画【おすすめレビュー】この世界の片隅に

巷では「君の名は」の大ブームが起きていましたが、その数か月前は「シン・ゴジラ」。

そして、年末商戦の直前１１月に、この映画が始まりました。

興行収入こそ二作には圧倒的に劣ったものの、数々の映画ファン、アニメファンを唸らせ、賞を総なめにしたのが、本作「この世界の片隅に」であります。

私も当時劇場へ足を運びましたが、衝撃でした。

超ハイクオリティアニメーション！

監督、片渕須直氏、制作MAPPA　という事で、クオリティが高いだろう予想はしていました。

只、先日述べた「バンパイアハンターD」のような美麗、カットの斬新さではなく、入念に積み重ねられた「細かすぎる」クオリティです。

→　こちらバンパイヤハンターD

語りたい事は山ほどありますが、今回も三つに絞ります。

ｐｏｉｎｔ①　細かい描写でリアリティの追求

ｐｏｉｎｔ②　のん　氏

ｐｏｉｎｔ③　時代を描く

サムネは漫画原作をお借りしましたが、基本的には初めの映画版。

近年やっていた「拡張版」でもなく、「初版」について話していきます。

では。

原作の漫画も良かったです。

ｐｏｉｎｔ①　細かい描写、リアリティの追求

本作の絵は非常に細かいです。絵というより、「動き」が細かい。

一見すると新聞四コマや昭和風の容姿で、色合いとしては紙芝居風です。

原画（静止画）に、リアリティは無いです。

が、ココ重要！

リアリティの薄い原画（静止画）だから、動画のリアリティが良く分かります。

動きの一つ一つが、異常なまでに細かいです。

〇　ファーストカットの、すずが船で挨拶をするシーンだけでも分かります。
細かく手を動かし、腰を引かして、足も痺れているのかもぞもぞとし、台詞が上手く言えず顏を斜めに揺らす。

たった数秒のシーンですが、もう、彼女がどんな人なのか理解できます。

〇　次の干上がった川を渡るシーン。
後ろ姿で兄弟三人が歩く姿が移されますが、その足取りだけで三人の気分の違い、はたまた性格の違いまでみて取れます。
試しに、ミュートで観てみると分かりやすいですね。
音がなくても、この人達がどんな人で、今、どんな気分なのか理解できます。

こんなシーンが、ほぼ全カットで描かれます！

また、主人公チームだけではなく、周囲のモブや草木までちゃんと動いています。

これで二時間作るとか、正気か？

しかも本作の予算って、当時流行り始めていたクラウドファンディングを利用して（当時最高額の3912万円を集めた）でも足りず、時間短縮で大幅カットになっていました。

そりゃ、こんなの三時間も描いたら、予算が幾らあっても足りないですよね……。

とはいえ、クラファンで集めないと資金繰りができない状態で、なぜ、このクオリティに拘ったのでしょう？

職人気質のクオリティマニアだから？

まさか。

ちゃんと理由があります。

その一つが、「すずさんが、実在したと納得させたいから」です。

実在していないのですが、アニメの中で本当に存在していたと実感を沸かせたい。

だから、リアリティのある動きを追求するのです。

ではなぜ、「実在したと納得させたいのか？」

その前に、本作での特筆点を述べます。

ｐｏｉｎｔ②　　のん！　氏　　

これ、奇跡でしょ？

芸能人が、こんなに見事に噛み合った役はそうそう見ません。

あまりの適合に、身震いしました。マジで。

芸能人、俳優女優が声優抜擢されるのは、さほど珍しくありません。

有名どころではジブリですが、ジブリが有名人を使う理由は大きく二つあります。

①　宣伝目的

②　素人と声優の間くらいが欲しい

①はプロデューサー各位、営業戦略です。

②は監督などの制作サイドの意向です。

宮崎駿氏も元々は「プロ声優起用」タイプでしたが、プロデューサーの手腕により、役者を起用するようになりました。

これ、凄く分かります。

十代、二十代くらいの頃は「声優の方が安定していて技術もあっていいだろ！」って、思っていましたが、今はむしろ「そういう技術とかよりも、一風変わった声が欲しいんだよね」となっています。

飽きるんです。

プロの声の作り、演技をされると「またこの感じか……」ってなるんです。新鮮さの意味合いも年代によって変わると思いますが、技術で作られた感じは、もうね、飽きるんです。

素人臭いくらいが、ちょうと新鮮なんです。

そういった新鮮を求めて、かといって素人では困難ですし、同じ「演技畑」に着目するのは、至極当然……。

って、思ってました。

その感覚で、本作も観ました。

５秒で首を振りました。

演技がどうとか、素人臭さがどうとか、そういう次元じゃないです。

完全に、すずさんでした。

この声と絵を見た瞬間に、これ以上のキャスティングはあり得ないと思いました。

「ルパン＝山田さん」「孫悟空＝野沢さん」のように、もう、これ以外の選択肢ないでしょ？　ってくらいに一致してました。

その上で、本職声優さんではできない「画に乗って来ないリアリティ」もちゃんとあり、実に新鮮です。

本職さんは、上手すぎて画に一致しちゃうんです。

半素人だからこそ、画に乗りきらないリアルな実像が出てきます。

別に、本職声優さんを否定していないです。

私は、自信を持って「釘宮病患者だ！」と叫べます。

でも、すずさんは、のん！　氏。

あまりにインパクトが強すぎて、逆に声優の仕事が減りそうだな……っと不安になるほど、素晴らしい出来でした。

さて、ここでも出てきました「リアリティ」。

本作の目的は、正にここ。

では、次項へ行きましょう。

（拡張版）

ｐｏｉｎｔ③　　時代を描く　

なぜ、絵をぐにぐにと動かして、普通のアニメでは無視するほどの細かい描写まで描くのか？

なぜ、すずさんをアニメの中で実在させなければならないのか？

なぜ、半素人の女優を起用するのか？

なぜ、あらゆるシーンで「日時」が表示されているのか？

なぜ、史実に添った描写をするのか？

この時代を、切り取る為です。

これが、最大目的です。

切り取る……なんて書くと、「この時代を無かったことにしろというのか？」とかいうボーイ、ないしオールドマンが現れそうですが、はいはいと温い手で返してあげません。

体験した人間以外で、その時代を語る事は不可能！

絶対に、無理です。

今の小学生、いや、私も含めていいです。

私「戦争は悪い事です」

と言ったとして、それ、なんの重みがあります？

ないでしょ？

だって、戦争を知らないから。

私も祖母から話しは聞いています。それこそ、祖父は呉で魚雷特攻の訓練を受けていましたので、後一年戦争が長引いていれば、私はこの世に存在しません。
聞いてはいますし、もし……にも抵触します。

が、知らないんです。

私は、知らないんです。

話を少しズラします。哲学します。

「知らない人」へ、知らせる方法は何か？

体系立てて、論理的に伝える事です。

一から十まで、事細かに説明して、それでも尚１割伝われば良い方です。

抽象的に「戦争は悪い」では、絶対に伝わりません。

だからリアリティが必要なのです。

で、「切り取り」です。

これだけやっても伝わらないのは間違い無いので、保存する必要があります。

保存されていれば、学習する事ができます。

保存対象は、極力、事実を残すべきです。

本作の最後に、すずさんは言います。

「（国民）最後の一人になるまで、戦うんじゃなかったんかね！」

こういう台詞が出るのは、当時の情勢を考えれば至極当然。

言わない方が、むしろ不自然です。

ここに「こんな事を描くと右翼とか言われるのだろうか？」なんて「今現在の」情勢を持ち込むと、あらゆるものが歪んでしまいます。

現代から、独立させなければいけません。

当時（リアル）を、「切り取る」必要があるのです。

こうした意志がしっかりと見えた、立派な作品でした。

　　まとめ　　　

よく本作の比較で

「火垂るの墓」

が上げられます。

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という感想もみかけます。

確かに、本作は、子供には観やすいです。絵が可愛いので。

ですが、蛍の墓ほど直球の画が無い分、周囲の大人が補足しなければ分からない部分も多いので、子供への説明という点では、本作の難易度は高いと思います。

「この話って、何なの？」

と問われた時の解答で、知性がモロバレしてしまいますので、お子様に見せる場合、予め弾は容易しておいた方が良いでしょう。

まぁ、「火垂るの墓」については、アンチ戦争映画では無いので、ここを見抜くのもまた難題ですが……。