考察ガチ勢が選ぶ【おすすめ漫画評価】封神演義

Amazon ジャンプジェイブックスDIGITAL 封神演義 導なき道へ(小説版) 藤崎 竜/ 吉上亮(著/文) 発行:集英社


おすすめランク B 

こんな人にオススメ ⇒ 異能力ドッカンバトル、と見せかけた女性向け作品

ストーリー 3
構成

4

4
キャラクター 3
総合評価   75  

【あらすじ】
国は中国、刻は「殷」。
殷王、名君と囃し立てられた君、「紂王」は、新たな妃「妲己」により暴君へと変えられた。
人々の混乱を傍目に、仙人界ではある計画が実行に移される。

「封神計画」

悪しき妖怪、仙人達を封印する計画。
その実行を担ったのは、太公望

後に、殷を破り、周王朝を築く若き道士であった

 

昨日(6/12)よりアニメイト様で「封神演義25周年記念フェア」として特典がもらえるそうなので、寄ってきました。

アニメイト池袋本店です。

(通販や他店舗でも開催。詳細は↓)

 

25年……も前の作品ですか、干支も二周廻っていれば知らない人もあるかと思われますので、復習がてら話してみます。

初めに結論だけ申し上げますが、今の十代が読んでも面白いです。

その理由も踏まて、ポイントを3つに絞ります。

 

point① 安定の歴史物&大胆アレンジ

point② 珍しいキャラクター配置

point③ 視点移動

 

んんと、今回はかなり構成の話になります。(いつも以上に)

というのも本作、構成に注力が向いている、当時のジャンプらしからぬスタイルだったのです。

 

一つ一つ分解してみます。

 

では、25年前へ、

 

point① 歴史物を大胆アレンジ

 

「封神演義(ほうしんえんぎ)」とは、中国四大奇書(ファンタジー)の一つです。

他は「西遊記」「水滸伝」「金瓶梅」です。

「金瓶梅」は「水滸伝」のスピンオフなので、私は「三大奇書」で習った記憶がありますが、ウィキペディアに準じて四大としておきます。

当時の知名度で言えば「西遊記」「水滸伝(金瓶梅も含む)」「封神演義」の順で、封神演義がぶっちぎりで最下位でした。本家中国での評価もぶっちぎり最下位。低俗とさえ言われています。
※ 原本の古書の評価です。

この知名度格差を真逆に転じたのが、本作です。

非常に分かりやすい異能力バトルに仕立て、その上で「殷」というマイナーだった(資料がほぼ無い)時代を世間に浸透させた功績は、物凄く大きいです。

これは個人的な観点ですが、「封神演義」の核を上手く抜き取っているなぁと感じました。

というのも「封神演義」が他の奇書よりランク下に扱われるのは、内容が陳腐だからです。

 

只の妖怪大戦争です。

 

殷周戦争も絡めていますが、その辺りがいまいちパっとしないですし、神々の系譜がぐちゃぐちゃだったり、仏も入って来ていたりと、かなりです

だから、他の奇書よりも低評価でした。

詰まる所、娯楽ファンタジーの域、今なら「なろう系」くらいの感覚だったのです。

 

でも、別にそれでいいんじゃない? 娯楽は娯楽で、特化させちゃえば?

 

ってな感じで、大胆アレンジが始まります。明治くらいからですかね? たぶん。

平成に入り、安能務 氏がより顕著に「殷周は神々の陰謀」説へ変更します。(←私はここから入った)

で、これを原作に異能力ドッカンバトル」へ更に飛躍したのが、本作、漫画版「封神演義」です。

 

いいアレンジでした。

原本が雑で深堀できない作品は、こうやって娯楽へ押し切った方が、読んでる方は面白いです。作品の寿命も延びます。

あれ、これ原作を深堀すると、怪我するかも?」

という触覚がビンビンに立っていたのでしょう。

大胆アレンジに踏み切ったのは、大正解と言えます。

 

歴史物にもタイプはありますが、漫画版の本作はあくまで「入口」としての機能に徹していて、小中学生にも分かる「封神演義」という、少年ジャンプの役割をしっかりとこなしていました。

 

ですが、それだけで、ヒット作には成りえません。

決定的な理由があるのですが、その前に、構成を少し挟みます。

 

 

 

point② 【妲己】というキャラクター

 

 

本作の最重要人物が、この「妲己」という狐の妖怪です。

この妖怪は、小説版、古書版、どれをとっても「雑魚扱い」の妖怪です。

大ボス「女媧」の手先、くらいの役割です。

本来、完全に雑魚です

 

が、この漫画版。

 

ラスボスヒロイン として活躍します。

 

ここが、超重要です。

 

敵と、ヒロインを一手に引き受けるキャラクターです

 

これ、かなり珍しい造りです。そうそう見ません。

例えばミステリーなどで「彼女役が犯人でした」は、多々あります。定番か! ってくらいあります。

そうじゃないんです。

 

初めから「敵」で、初めから「ヒロイン」なんです。

 

この立ち位置が、近年漫画史でも飛び抜けて面白い構造でした。

分解すると、理由は分かります。

こういう歴史物って、女性が登場すると、概ね「傾国の魔女」です。本作は、古書時代からずっとそうです。

「妲己」は傾国の魔女です。

只、それ以外の女性に登場(役割)がほぼ無い

それも歴史物の特徴ですね。

漫画版でも、女性陣は敵側ばかりで、主人公サイドに女性が皆無です

 

だから、自然とヒロインになりました。

 

これ、途中からは狙っていたでしょうが、初めから狙っていたのかは甚だ疑問です。

必然的に「敵」と「ヒロイン」が重なるしかなかったはずです。

 

こうなった理由をもう一つ分解すると、これが「漫画」だからという一因も挙げられます

「漫画」という視覚効果の高い「絵」を使うので、数少ない女性陣、特に「王妃」や「魔女」は華美になります

本作も正にそうで、「綺麗な女性」は、妲己くらいしか書けません。

少年誌なのに、華やかな女性が居ないとか、ありえません!

特に、ラスボスという役割もあるので力が入ります。

 

結果、「ラスボス」と「ヒロイン」をどちらも担う大役となりました

 

最早、妲己がいなければこの物語は成立しない程に、最重要人物となりました。

地味で目立たない過去から、一流女優へ……。高校デビューに千年費やしたパターンですね。

 

さて、ここです。

本作最重要ポイントは「妲己」が居た事により、別の効果が発動した事です。

 

point③ 女性人気  

 

はい、毎回書く文言です。

売れるには、「女性人気」が必須です。これが無いと、絶対に売れないです。

厳密には、男だけ狙っていても市場規模が狭い。(単に半分ですから)

ジャンプのような一流雑誌の看板になる作品は、必ず、女性ファンも付きますし、付かなければ看板にはなりません。

本作は、これを完全にクリアしました。

 

理由?

 

冒頭で、私は今日の日程をお話しました。

アニメイト池袋本店で」「封神演義の特典」を貰いに行った、と。

行った事がある人は御存知でしょうが、あそこ、女性の聖地です。

見渡す限り、女性しかいません。

しかも、その数が桁違いです。近所のアニメイトと比較しないで下さい。

エレベータ―待ってても乗れません。階段もずーっと女性の列です。

 

9階建てのビル一つ丸ごと、女性向けアニメ、漫画作品しか置いていません。

 

そんな聖地で、特典を配られる作品です。

25年も経っている作品なのに!

 

では、なぜそうした人気が出たのか、論理的に解説しましょう。

もう半分以上は話しています。

 

ヒロインが、ヒロインじゃないのです。

敵役なんです。

 

主人公、太公望側に絡んで来るメインパーソンが、全て男です

紅一点を、なんと敵役が担っている……。

知ってますよ、これ、BLで観るパターンですよね?

余計な、女が居ない爽快感

これ、無いとは言わせません。

 

で、絵の線と衣装、意匠デザイン。

かなり細くて、デザインが複雑です。

見ごたえありますよね?

ぶっちゃけ、男子はこの服装や背景、何一つ覚えてないです。

なんで、この良さが分からないんだ! ですよね?

これも、無いとは言わせません。

 

後一つ、キャラクターの視点移動が多いです。

私の口癖は「視点移動が多い、読み辛い」です。

でも、これはあくまで男目線です。

男なんか、兎に角、熱く殴り合い、バーンと必殺技して、スカっと決着がつけばなんでも良いのです。

キャラクターの一人一人の生活とか人生とか、マジどうでもいいんです。

ですが本作、かなり細かく一人一人が描かれています。

男子的には「ダルっ!」ってエピソードがかなり多いですが、男子ではない人は「そこがいい」になるかもしれません。

 

そういう事です。

そう、設計されています

 

誰が設計したのかは不明ですが、おそらく編集さんはこれを狙ったはずですし、作者もそこに乗っかれる感性がありました。

point① でも述べましたが、この作者、本質を抜き取り誇張させるセンスが凄くあります。

 

・男子が好きそうなバトルをメインにして、

・本質のところでは女性に向けての体裁も欠かしません。

 

非常にバランスの優れた、素晴らしい作品だったと思います。

安定感がバッチリです!

後、こうした安定感のある作品は、今でも気楽に読みたくなります。ちゃんと読者配慮のされたサービス精神が満点なので、安心できます。

 

昨今では類の多い作風なのですが、この流れを作った作品とも言えますので、今の若い人が読んでも面白いと言える作品かと思います。

 

封神演義ファンは、通販とは言わず、是非、聖地へ特典を貰いに行って下さいね!