書店員が本音で選ぶ【おすすめマンガ】BEASTERS

   おすすめポイント

少年チャンピオンで2020年まで連載されていた人気マンガ。

擬人化された動物たちが織り成す青春ドラマ、と見せかけてその中身はなかなかハード。

在るべき自分の姿とは何なのか、肉食獣と草食獣の共存と戦いを描いた物語です。

絵はかわいらしくほのぼのとしたシーンも多いけれど、肉食獣同士の激しいバトルや草食獣を食殺するシーンもたくさん。

細部まで描きわけられた動物たちの姿も見どころのひとつです。

アニメは2021年春に2期まで放映されましたので、映像で見たい方はこちらでもぜひ。

アニメ公式YouTube

 

主題歌もイイです。

YouTube YOASOBI「怪物」 公式

 【あらすじ】

全寮制のチェリートン学園でアルパカのテムが何者かに食殺された。
肉食獣と草食獣が共存する世界で、それは最大のタブーであり、超えられない種の壁でもあって…。
ハイイロオオカミのレゴシ(17歳)と多種多様な動物たちが織りなす、激しく切ない青春群像劇!!

(板垣巴留『BEASTERS』特設サイトより)

 

胸熱 5
胸キュン 4.5
泣ける 3
笑える 4.5
売れ行き 4.5

 

アルパカのテムが食い殺され、ミステリ風に犯人探しが始まった……

かと思いきや、その後はしばらく、ほのぼのとした寮生活が描かれます。

主人公のレゴシは大型肉食獣でありながらアカシカのルイ先輩に頭が上がらない。

その一方でレゴシは狼の本能に突き動かされてドワーフウサギのハルを襲ったり、舞台上でベンガルトラのビルと殺し合い寸前になったりと目まぐるしく物語は進んでいきます。

 

「自分はこうありたい」という願望を内側からぶち壊してしまう本能と、「本能があるからこそ実力が発揮できる」という葛藤。

その二点をバトルを交えながらうまく描いていてページをめくる手が止まりません。


自分らしく生きるとは何なのか、己を突き動かす本能とは何なのか、考えさせられるマンガです。

 

  購買層

20~50代女性。

少年チャンピオンの読者層は高校生男子~成人男性にもかかわらず、コミックの購買層はほぼ女性なのがこのマンガの面白いところ。

作者が女性なのと、奥深いドラマの端々に恋愛シーンが盛り込まれているところが女性読者の心をつかんだのではと思います。

コミカルなシーンも多いので小学生男子も読みたがりますが、過激なシーンもかなりあるので、お子様に読ませるかどうかは一読してから決めてください。

(私は息子にOKを出しましたが、ずいぶん悩みました。本人は楽しく読んでいます。それについては最後に書いています)

 

 

 ミステリ風導入からの激しいバトル

物語はアルパカのテムが何者かに食い殺されるところから始まります。

「本当にクラスメイトを食べるつもりか……?」

「いつも一緒に授業を受けていただろ……」

「お前たち肉食動物にとって
 俺たちは しょせん食い物なんだ」

(1巻より抜粋)

 

テムがつぶやくこのセリフに物語の全てが凝縮されています。

ハイイロオオカミのレゴシが生きるこの世界は草食獣と肉食獣が共存し、同じ教室で肩を寄せ合って授業を受けています。けれど肉食獣と草食獣は常に「食う、食われる」関係にあり、冒頭から食殺事件が発生。

アカシカのルイ先輩が部長を務め、一見平和そうに見える演劇部にも様々な決まりごとがあり、草食動物たちはいつも「食われるかもしれない」という恐怖を抱きながら生きています。

 

主人公のレゴシは「食ってしまう」側の生き物

けれど物語が進む中でルイ先輩と衝突しながらも心を通わせ、ドワーフウサギのハルに恋心を抱くようになります。

 

可愛い小動物がたくさん出てきてほっこり、肉食のトラも可愛いとこあるね♪なんてほんわかしながら読んでいたら、肉食獣同士が争うシーンでは肩を噛みちぎったり食い殺したりとかなりハードな展開に……

 

その一方で草食獣もなかなかに腹黒であくどいキャラもいて読み手を飽きさせません。

前半では肉食獣が圧倒的な力を誇示していたはずなのに、中盤まで進むと草食獣の方が生きることに強欲でしたたかなのではと思わされてしまいます。

 

作者さんは女性ですが、さすがの少年チャンピオン、バトルシーンが熱いです。

作画については賛否両論あるようですが、ラフなタッチのイラストが私はかなり好きです。

普段は温厚なレゴシの本能が発揮されるシーンなどは息を飲むほどの迫力。

オオカミこわ……パンダってこんなに強いの……と改めて動物の怖さを知るシーンもたくさんありました。

 

小さい頃に絵本で感じた「未知で強大な力への恐怖」といった感情を駆り立てられる作品でもあります。

 

                honto

 

 

 本能と与えられた生き方との葛藤

肉食動物であるレゴシの本能は「草食獣を食い殺す」こと。

平和に思えたこの世界の現実を闇市で目の当たりにし「肉食獣が草食獣を食うこと」について考えるようになります。

草食獣を食いたくない、けれど食わなければテムを食殺した犯人を仕留められず、体は弱る一方。

闇市で出会ったパンダ医師のゴウヒンと共に「食わずに生きる道」を探りますが、結果、犯人に勝つために出した答えが衝撃的で……

これをどう感じるかはかなり意見が割れるのではと思いました。(ぜひ読んで感じてほしい)

少年漫画でよくある「正義は悪に必ず勝つ」方程式が成り立たず、先の展開も読めません。

 

悪いのは本能に負けた肉食獣なのか、か弱い草食動物なのか。

そもそも共存する道を選んだ世界の仕組みそのものなのか。

 

レゴシとルイ、対極の立場にある二匹の生きざまを見ながら思うところはたくさんありました。

ちょうどこのマンガを連載していた時期に「草食獣と肉食獣がコンビを組めたらハッピーな世界があるかもしれない」的な映画が上映されましたが、『BEASTERS』はそんな簡単に答えを出させてくれません。

 

結末にこれまた賛否両論あるようですが、何を思うかは読み手の自由にしたところがまた女性作家さんらしいなと感じました。

ぜひその目で結末を見届けてほしいです。

 

 

 

 

 小悪魔すぎるハルちゃんとツンデレルイ先輩

1巻の第4話から5話にかけてレゴシに襲われるドワーフウサギのハル。
か弱くて小さくてモフモフでとっても可愛いんです。
別のウサギの男を寝取った疑惑を持たれる彼女ですが、ハル主観で読んでいると「こんな天使みたいな子がそんなことしないよね」と本気で信じてしまいます。
 
私は信じました。
彼女の可愛さに嫉妬したメスウサギのフェイクニュースだろうと。
 
……まんまと騙されたわけです。
ハルはものすごい小悪魔でした。
 
小悪魔どころかまあまあ驚きの思考回路の持ち主です。
図太いというか無神経というか、女子の中ですごく嫌われるタイプ
お昼ごはんを一匹で食べてかわいそう、なんて最初の頃は思っていましたが、彼女に女友達なんか必要ないわけです。完全に開き直っています。
 
「さみしかった」とめそめそ泣きついたりしながら、レゴシやルイよりも強い精神を持った生き物でした。
 
他にもメスの生き物が何匹も登場しますが、誰もが女性らしい姿とは裏腹にしたたかで強靭な心の持ち主
私は精一杯生きた、いつ食べられたってかまわない、と覚悟を決めているところにかっこよさを感じます。
 
それに反して尊大な態度でプライドも山のように高いルイ先輩は、ぐらぐらしまくってます。

レゴシに疑問を叩きつけられては怒り、ハルの笑顔を思い出しては決意が折れそうになる。
ひとり気高く生きているつもりだけれど、ルイは多くの仲間に支えられて生きています。
何もかも捨てて金と暴力の世界に飛び込んだはずなのに、後輩のレゴシがしつこく追いかけてきたり、過ぎ去った恋を夢にまで見たり。
いろんな表情を見せてくれるツンデレルイ先輩についときめいてしまう!
母性本能がくすぐられる、というやつですね。
 
レゴシ、ルイ、ハルの三角関係がとっても面白くて、シリアスなシーンのあとのコミカルパートに毎回期待してしまいます。
少年チャンピオンのマンガでこんな胸キュンストーリーが読めるとは夢にも思っていませんでした。
 

 

まとめ
理性と本能、その両側で抗いながら生きる動物たちの物語。

必ず一匹は推しキャラがいて応援したくなります。

特にハルちゃんの小悪魔っぷりは他で読んだことのないレベル。

同性でも胸キュンです!

 

    書店員 ウラ話
ずーっと以前から気になっていたのになかなか購入できなかった『BEASTERS』。
買えなかった理由は「息子が読みたいって言ったらどうしよう……」でした。
(絵をじっくり見たいので紙派です。電子書籍で3巻まで試し読みはしていました)
バトルとか食殺のシーンは例の鬼を滅する漫画でもあるし、まあよいとして。
問題はハルがレゴシを誘惑するシーンと、襲われて強制大股開きと、ストリップショーで大股開き誘惑からのトイレでアレのシーンですよ。
 
少年チャンピオンで連載していたので大人にはどうってことないんです。
具体的な描写は避けているので、せめても読者層である高校生男子は。
問題は小学生に読ませていいのかどうか。
 
擬人化された動物ですが、かなーり官能的です。
草食獣がエロいと思ったのは人生初です
男性作家さんのもろエロなら「誰でも通る道だしまあいっかな」って思えるんですが……
(↑よくはない、とおっしゃる方もいると思いますが、この問題はとりあえず置いといてください。すでに少年マガジンの『七つの大罪』でダンチョーのエロっぷりは読んだ後なので)
悩んだ末にググってみたら同じことで悩んでいる人がたくさんいた(笑)
 
どうしても先が読みたい、全部読むならコミック本体が欲しい……
さんざん悩んだ末に購入したら、案の定息子が「読んでいい?」と食いついてきました。
(小学五年生です)
そこで「ぜひ読んでほしい」「官能シーンがアレなのでやめましょう」を天秤にかけた結果、息子にはOKを出すことにしました
主題はエロじゃないし。どっちかっていうとレゴシとルイの生きざまを読んでほしい、とそちらを優先しました。
 
そうした人もいるし、読ませず夜中にこそっと読んでいる人もいるようです。
もし夜中に読んでいたのにお子さんが起きてきて困った人は「〇〇歳になったら読もうね」と言ってあげてください。
レーティングをかけるほどではないにしても無防備で読ませるマンガではないのと思いますので。
少年チャンピオンってそういうコミック誌です
その辺りをよく鑑みた上で親子で楽しく話題の共有ができればいいなあと思っています。
ちなみに息子は、ハルちゃんが高い所の箱をまごの手みたいなもので取ろうと背伸びをしているシーンや、くどくどとルイ先輩に迫るしつこいレゴシのアップでゲラゲラ笑っていました。
官能シーンについて何を感じているかはわかりませんが、私もわざわざ聞きはしません(笑)