おすすめポイント
少年チャンピオンで2020年まで連載されていた人気マンガ。
擬人化された動物たちが織り成す青春ドラマ、と見せかけてその中身はなかなかハード。
在るべき自分の姿とは何なのか、肉食獣と草食獣の共存と戦いを描いた物語です。
絵はかわいらしくほのぼのとしたシーンも多いけれど、肉食獣同士の激しいバトルや草食獣を食殺するシーンもたくさん。
細部まで描きわけられた動物たちの姿も見どころのひとつです。
アニメは2021年春に2期まで放映されましたので、映像で見たい方はこちらでもぜひ。
主題歌もイイです。
【あらすじ】
全寮制のチェリートン学園でアルパカのテムが何者かに食殺された。
肉食獣と草食獣が共存する世界で、それは最大のタブーであり、超えられない種の壁でもあって…。
ハイイロオオカミのレゴシ(17歳)と多種多様な動物たちが織りなす、激しく切ない青春群像劇!!
(板垣巴留『BEASTERS』特設サイトより)
胸熱 | 5 |
胸キュン | 4.5 |
泣ける | 3 |
笑える | 4.5 |
売れ行き | 4.5 |
アルパカのテムが食い殺され、ミステリ風に犯人探しが始まった……
かと思いきや、その後はしばらく、ほのぼのとした寮生活が描かれます。
主人公のレゴシは大型肉食獣でありながらアカシカのルイ先輩に頭が上がらない。
その一方でレゴシは狼の本能に突き動かされてドワーフウサギのハルを襲ったり、舞台上でベンガルトラのビルと殺し合い寸前になったりと目まぐるしく物語は進んでいきます。
「自分はこうありたい」という願望を内側からぶち壊してしまう本能と、「本能があるからこそ実力が発揮できる」という葛藤。
その二点をバトルを交えながらうまく描いていてページをめくる手が止まりません。
自分らしく生きるとは何なのか、己を突き動かす本能とは何なのか、考えさせられるマンガです。
購買層
20~50代女性。
少年チャンピオンの読者層は高校生男子~成人男性にもかかわらず、コミックの購買層はほぼ女性なのがこのマンガの面白いところ。
作者が女性なのと、奥深いドラマの端々に恋愛シーンが盛り込まれているところが女性読者の心をつかんだのではと思います。
コミカルなシーンも多いので小学生男子も読みたがりますが、過激なシーンもかなりあるので、お子様に読ませるかどうかは一読してから決めてください。
(私は息子にOKを出しましたが、ずいぶん悩みました。本人は楽しく読んでいます。それについては最後に書いています)
ミステリ風導入からの激しいバトル
物語はアルパカのテムが何者かに食い殺されるところから始まります。
「本当にクラスメイトを食べるつもりか……?」
「いつも一緒に授業を受けていただろ……」
「お前たち肉食動物にとって
俺たちは しょせん食い物なんだ」(1巻より抜粋)
テムがつぶやくこのセリフに物語の全てが凝縮されています。
ハイイロオオカミのレゴシが生きるこの世界は草食獣と肉食獣が共存し、同じ教室で肩を寄せ合って授業を受けています。けれど肉食獣と草食獣は常に「食う、食われる」関係にあり、冒頭から食殺事件が発生。
アカシカのルイ先輩が部長を務め、一見平和そうに見える演劇部にも様々な決まりごとがあり、草食動物たちはいつも「食われるかもしれない」という恐怖を抱きながら生きています。
主人公のレゴシは「食ってしまう」側の生き物。
けれど物語が進む中でルイ先輩と衝突しながらも心を通わせ、ドワーフウサギのハルに恋心を抱くようになります。
可愛い小動物がたくさん出てきてほっこり、肉食のトラも可愛いとこあるね♪なんてほんわかしながら読んでいたら、肉食獣同士が争うシーンでは肩を噛みちぎったり食い殺したりとかなりハードな展開に……
その一方で草食獣もなかなかに腹黒であくどいキャラもいて読み手を飽きさせません。
前半では肉食獣が圧倒的な力を誇示していたはずなのに、中盤まで進むと草食獣の方が生きることに強欲でしたたかなのではと思わされてしまいます。
作者さんは女性ですが、さすがの少年チャンピオン、バトルシーンが熱いです。
作画については賛否両論あるようですが、ラフなタッチのイラストが私はかなり好きです。
普段は温厚なレゴシの本能が発揮されるシーンなどは息を飲むほどの迫力。
オオカミこわ……パンダってこんなに強いの……と改めて動物の怖さを知るシーンもたくさんありました。
小さい頃に絵本で感じた「未知で強大な力への恐怖」といった感情を駆り立てられる作品でもあります。
honto
本能と与えられた生き方との葛藤
肉食動物であるレゴシの本能は「草食獣を食い殺す」こと。
平和に思えたこの世界の現実を闇市で目の当たりにし「肉食獣が草食獣を食うこと」について考えるようになります。
草食獣を食いたくない、けれど食わなければテムを食殺した犯人を仕留められず、体は弱る一方。
闇市で出会ったパンダ医師のゴウヒンと共に「食わずに生きる道」を探りますが、結果、犯人に勝つために出した答えが衝撃的で……
これをどう感じるかはかなり意見が割れるのではと思いました。(ぜひ読んで感じてほしい)
少年漫画でよくある「正義は悪に必ず勝つ」方程式が成り立たず、先の展開も読めません。
悪いのは本能に負けた肉食獣なのか、か弱い草食動物なのか。
そもそも共存する道を選んだ世界の仕組みそのものなのか。
レゴシとルイ、対極の立場にある二匹の生きざまを見ながら思うところはたくさんありました。
ちょうどこのマンガを連載していた時期に「草食獣と肉食獣がコンビを組めたらハッピーな世界があるかもしれない」的な映画が上映されましたが、『BEASTERS』はそんな簡単に答えを出させてくれません。
結末にこれまた賛否両論あるようですが、何を思うかは読み手の自由にしたところがまた女性作家さんらしいなと感じました。
ぜひその目で結末を見届けてほしいです。
小悪魔すぎるハルちゃんとツンデレルイ先輩
レゴシに疑問を叩きつけられては怒り、ハルの笑顔を思い出しては決意が折れそうになる。
まとめ
理性と本能、その両側で抗いながら生きる動物たちの物語。
必ず一匹は推しキャラがいて応援したくなります。
特にハルちゃんの小悪魔っぷりは他で読んだことのないレベル。
同性でも胸キュンです!