【レビュー】余命10年(映画版)【構成考察】

 

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※当ブログ記事は、構成の解説をしますので、全て100%ネタバレありです。

【あらすじ】

主人公、茉莉(まつり)は20歳の夏、数万人に一人の肺動脈性肺高血圧症だと診断される。調べた結果、「余命10年」だと知ってしまう。
自宅療養で退院するも、大学の中退、病により就職もままならず、生きる気力を亡くしていく。
そんな折、中学の同窓会で和人と出会う。当時有能だったはずの和人は、生きることに迷い、自殺騒ぎを起こすパニック障害を抱えていた。
命を軽んじる和人と、寿命の無い茉莉の愛の軌跡を辿る物語。

 

【評価 A】

 

最近、恋愛物マイブームが起きていますが、ほったんが本作でした。

シナリオがとても優秀で、構成も素晴らしかったです。

画も明暗のはっきりとした美麗な映像で素晴らしかったです。

特に構成。お手本にできる完成度でしたので、作家志望の方は必見といえます。

では、その構成を追いながら本作の見所を追っていきます。

 

構成1 悲劇の主人公

 

主人公は基本的に不幸である必要があります。というのも、シナリオって

「主人公が何かの壁や障害に立ち向かい、それを乗り越えて成長していく」のが物語です。

そうじゃない物もありますが、基本はこれです。

なので、「悲劇の主人公」は最適解です。特に、難病などはテーマが明確で超える障壁も一目瞭然ですので、主人公の設定としては最強の部類に入ります。

只、こうした「テーマ作り」や「何を達成させるか」はシナリオ構成では奥義のようなところがあって、個性の出る場所でもあるので、安易に難病を設定するのを嫌う人も多いと思います。

ところが本作、安易ではありません

原作を御存知の方もいると思いますが、本作、半自伝です。

そう、作者、小坂 流加氏はこの作品を執筆後、亡くなられています。主人公と同じ病です。

まさに、命をかけて執筆された物語です。

この時点で、シナリオにとって最も必要な背景が揃っており、テーマに重みを持てます。

 

構成2 主人公の葛藤と成長

 

葛藤と成長がシナリオには必須です。これがないと「転」が作れません。

本作では主人公の茉莉が葛藤して成長します。

この基本的な作り方は「成長(達成)した状態と逆から始める」ですね。

 

▶まず当初の茉莉は生きる事に絶望しており、何事も投げやりで無気力です。
(成長時と逆の状態)
▶最終的には、生きる事に意義を感じ、今できる最善の事を行おうとして小説を書き始めます。(成長、達成状態)
▶その成長を助けたのが、恋人の和人です。(きっかけ)

この構成って恋愛物だと王道中の王道なのですが、全然使えます。シンプルでありながら表現できる事の幅が広いので「恋愛ってどう書いたらええんや!」って迷う方は、とりあえずこれ使っておけば間違いないです。

 

 

構成3 伏線の使い方が豊富

演出側で評価が高かったのは、伏線の扱いです。

伏線にも幾つかあります。

「短い期間で回収する伏線」

本作だと、和人が自殺騒ぎを起こしてそこから立ち直る、という場面です。これは伏線というより「切っ掛け」と言った方が正しいかもしれないですが、短期的なイベント、承で使われるイベント作りに最適です。

 

▶「長期間で回収する伏線」

本作の代表的なシーンになりますが、桜がブワっとなるシーンです。これが序盤と最後に出てきます。この時の意味合いは異なります。

一度目は「恋が芽生えた」を表現。

二度目は「茉莉が亡くなった」を表現しています。

このように、長期的に伏線を仕込む場合、初めと後で意味合いを変えておくとシナリオ強度があがりますね。

 

他にも色々とあったので、プロットに分解してみると参考になります。

 

構成4 言葉と行動の不一致

 

これはもっぱら「転」に出てきます。

本作の転では茉莉の口から直接発せられる言葉は

「死にたくない」

です。

ですが、結果としての行動は

「残りの時間を一生懸命生きる

です。

言動が不一致なのですが、こういう転があると「センスいいな」って思います。言動の不一致こそリアリティがありますから。

 

まとめ

屈強なテーマ、背景があり、様々な角度から演出が施されている点で、非常に評価は高いです。

やっている事自体はシンプルなものが多いですが、それ故、テーマを語るスペースが多くとられており、じっくりと腰を据えて観るのに最適な映画だと思いました。

で、たぶん「和人側の感情描写が少ない」って人もいるかと思いますが、個人的にはこの程度で良いです。

和人の役割は恋人というより「未来のある人間」という側面が大きいので、あまり書き過ぎると主人公の茉莉のテーマがぼやけそうなので、これくらいでいいかなと思いました。

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