シナリオ作成で、多くの方が挫折する箇所は決まっています。
「最後まで書けない」
これに尽きます。
私も、初めて執筆を開始してから、最後まで書けるようになるまでに五年かかりました。
五年間、最後まで書けませんでした。
理由は簡単です。
いきなり書くから!
頭の中で色々と考えて、「面白そうだ」と思って書き始めると、まぁ、大体書けません。
実際に書いてみると、不足する部分が大量に現れて、それを補うために文章を増やし、急遽本を読んだりしてインプットを増やしてなんとか凌ぐのですが、それも最後まで持たずに途中止めになってしまいます。
安心して下さい。
それで良いです。
むしろ、それが良いです。
下手に最後まで書ける方が、後々厄介です。
シナリオには書き方がありますので、それを勉強すれば「途中止め」は無くなります。
では、今回はその手順をご紹介します。
創作手順 8行で書く
はい、文字通りの意味です。
挫折するのは、単にストーリーが長いからです。短ければ、挫折しないです。
8行で物語を書けば挫折しないはずです。
何言ってんの? 正気なの?
って思われる方へ。
これ、云百年、云千年も前からやられている作法、「プロット」ってやつなんです。
勿論、今でも現役バリバリの第一線級の作り方です。
しかも、プロ御用達です。
脚本の世界では、「箱書き」と呼ばれる作法です。
8行ですから、誰でも書けます。
その前に、重要ポイント。
ココ大切!
「8行だから、捨てられる」
これが、物凄く大切です。
いきなり本文を書いてしまうと、愛着が沸いてしまい消せないんです。
本心では「あれ? これ矛盾が出てるな」とか
「このキャラ、言ってる事がバラバラだ」とか思っているのに、一度書いてしまうと愛着が沸いてしまい、無理やりそれに合わせようとしてストーリーを歪めてしまいます。
で、結局、にっちもさっちもいかなくなり、頓挫……。
ですよね?
8行なら、いくらでも修正できます。
いくらでも、消せます。
だって、まだ8行しか書いてないから!
所謂、シミュレーションです。
スポーツでも通常業務でも、一流になればなるほど、シミュレーションや日頃の体調管理に気を使います。
シナリオも同じです。
まずは、入念にシミュレーションを行いましょう。
では、具体的に書き方を説明します。
大箱
私は、この8行を「大箱」と呼んでいます。別に業界用語ではないです。使いやすいのでこの言葉にしています。
この先、中箱、小箱と派生していきます。
今回は「桃太郎」を題材に、プロットを組んでみます。
- 貧しい老夫婦がいる
- 老夫婦は貧しい。子供もいない。
- 川から桃が流れてくる
- 拾って帰り、割ると、子供が出てくるので、桃太郎と名付ける。
- 桃太郎育つ
- 鬼による暴虐
- 桃太郎は鬼退治を決意
- 鬼を倒す。
はい、これだけです。
桃太郎の概ねは説明しました。これだけで、大体どういう話かは分かります。
ではこれを、じっと眺めてみましょう。
ん?
なんか、バランス悪くないですか?
「⑦ 桃太郎は鬼退治を決意」から、すぐに「⑧ 鬼を倒す」になります。
バランスが悪いですよね。ご都合主義。
じゃ、訂正。
- 貧しい老夫婦がいる
- 老夫婦は貧しい。子供もいない。
- 川から桃が流れてくる
- 拾って帰り、割ると、子供が出てくるので、桃太郎と名付ける。
- 桃太郎育つ
- 鬼による暴虐
- 桃太郎は鬼退治を決意
- 桃太郎は、仲間集めをする
- 鬼を倒す。
んん……、9になってしまいました。って事は、バランスが悪い。
※ なぜ「8」なのかは、一先ず置いておいてください。
1~5が「日常生活」ですが、この物語は「日常系」にするのか?
「桃太郎が育つ」がメイン?
いやいや、そこじゃないでしょう。
バトルだ! 勧善懲悪だ!
であれば、訂正。初めを削りましょう。
- 貧しい老夫婦がいる
- 川から桃が流れてくるので、拾って帰り、割ると、子供が出てくるので、桃太郎と名付ける。
- 桃太郎育つ
- 鬼による暴虐
- 桃太郎は鬼退治を決意
- 桃太郎は、仲間集めの旅に出る。
- 仲間を集める。
- 鬼を倒す。
バランスは良くなりました。只、これだとメインは「日常系」では無いので、少年誌的なバトル物です。
加えて、①、②に背景設定を詰め込んだので、たぶん書ききれない。
「子供のある、なし」は私としては大切だけれど、削る必要があるはず。
でも、それだとやや弱いかな……。
ん?
そもそも「貧しい」は必要?
でも、貧しくないと川から流れてくる桃を拾う必要性が無いです。
というより、金持ちの家のボンボン息子パターンだと「鬼に奮起する」理由が薄く、金持ちだけど庶民を助ける話にする気はない。
貧しい家庭で育ったが、村の中心人物になった。であれば、村を背負って立つ理由付けにはなる。
訂正。
- 貧しい村の貧しい老夫婦がいる
- 川から桃が流れてくるので、拾って帰り、割ると、子供が出てくるので、桃太郎と名付ける。
- 貧しい環境の中、村人たちの中心人物に桃太郎は育つ
- 鬼による暴虐で、村の食料が奪われる。
- 桃太郎は鬼退治を決意
- 桃太郎は、仲間集めの旅に出る。
- 仲間を集める。
- 鬼を倒し、食料を持ち帰り、村を救う。
んん……。
なぜ、仲間が必要なのか? 一人で倒せば? 金太郎みたく。
それだと、バラエティに乏しくなる……。
その前に、人間が一致団結して鬼を倒せるとなると、そもそも村人が団結していれば食料奪われないよね?
桃太郎は人間以上の、神力を持った超人である必要がある。
そうなると、「桃から生まれた」に理由ができてくる。
神様に、人間の仲間は必要?
そもそも、⑥、⑦の枠だけで仲間集めは尺が少なすぎない?
餌やればついてくる連中にすれば?
傭兵?
動物の方が、より神話っぽくなるし良いのでは? 文字通りの「エサ」で辻褄が合うし。きび団子とか。
訂正。
- 村に貧しい老夫婦がいる
- 川から桃が流れてくるので、拾って帰り、割ると、子供が出てくるので、桃太郎と名付ける。
- 貧しい環境の中、村人たちの中心人物に桃太郎は育つ
- 鬼による暴虐で、村の食料が奪われる。
- 桃太郎は鬼退治を決意
- 桃太郎は、きび団子を持ち、仲間集めの旅に出る。
- 犬、猿、雉を集める。
- 鬼を倒し、食料を持ち帰り、村を救う。
老夫婦に関しては、地位が低い方が主人公の出世物語としての説得力が出ない?
お爺さんを芝刈りとかにする?
あと、奪われたものが「食料」ってのはリアルだけど、物語としては映えないよね。
金銀財宝にする?
金銀財宝持ってる貧しい村、って矛盾するね。農作物が取れず、これしか資源が無い村にしよう。
訂正。
- お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯へ
- 川から桃が流れてくるので、拾って帰り、割ると、子供が出てくるので、桃太郎と名付ける。
- 貧しい環境の中、村人たちの中心人物に桃太郎は育つ
- 鬼による暴虐で、村の貴重な資源である金銀が奪われる。
- 桃太郎は鬼退治を決意
- 桃太郎は、きび団子を持ち、仲間集めの旅に出る。
- 犬、猿、雉を集める。
- 鬼を倒し、金銀を持ち帰り、村を救う。
OK。ひとまず、パターン1は終わり。
※ 実際には、これを何パターンも作っていきます。
こんな感じで、8行内に整理していく作業が「プロット」です。
本文を書く前ですので、いくらでも修正ができます。
「修正する事」が作業目的です。
まずは、8行。
今回は桃太郎というショートストーリーでしたが、どれほど複雑な物語でも、8行で書けます。
まとめ
慣れてくると、この8行だけで80%以上を完成させられます。
短時間で作業が終わりますし、効率が非常に良く、また他者との打ち合わせも可能です。
書き直しが可能な状態で、嫌になるほど書き直すのですが、最強のコストパフォーマンスを生み出します。
何より、この作業で、シナリオの良し悪しの大半が決まります。
だからまずは、ここから始めるのです。