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おすすめランク A
こんな人にオススメ ⇒ 渋い男のロマンを観たい方
キャラクター | 3.5 |
脚本 | 3.5 |
映像 | 3 |
情熱 |
4 |
評価点 79点 |
【あらすじ】
『42』
それは、米国野球リーグ(大リーグ)、全球団統一の永久欠番。
背番号に秘められた、大いなる意義。
人種差別と闘った一人のヒーロー。そして、一人の老人。
時勢を変えた熱き魂を持った二人の男の半生を描く。
米国野球大リーグでは、毎年4月15日、全ての選手が背番号「42」のユニフォームを着る。
その日は、白人リーグであった大リーグに、黒人選手がデビューした日。
選手の背番号は「42」
名を、ジャッキー・ロビンソンという。
近年、人種差別問題はアメリカで大きな関心が寄せられる話題であり、政治要素も含む巨大な社会問題です。
今や黒人選手がスポーツ界で活躍するのは当たり前! の時代ですが、その中でさえも人種差別は明確に続いています。
特に、戦後間もない1900年代初頭では、差別は当たり前でした。
ですが、第二次世界大戦でファシズムを打ち破った西諸国では、政策や民族、人種における「自由」も認めるべきだという風潮が徐々に広まりつつありました。
事実、法的に黒人差別は禁止されています。
しかし、慣習として、人種差別は明瞭に残されており、大リーグは白人のものとしての認識があったのです。
そこに、風穴を開けた選手こそ「42」の数字を背負った、ジャッキー・ロビンソンでした。
歴史背景としては、そんなところです。
非常に有名な選手ですので、何度か映画化されています。
毎年4月15日に「42」を付ける選手を見て、「なにこれ?」と調べた方も多いでしょう。
伝記も数多くあります。
中でも、本作はオススメできます。
映画がやれることを活用した、映画だからできる伝え方をしていました。
刺激を重視する若者向けというより、「あぁ、ここを知りたかったんだよ」という大人向け作品になっています。
大リーグに挑戦したい若者達は、教養として観ておくと良いでしょう。
大人は、じっくり感動して下さい。
圧倒的、苦難
ストーリーの主人公とは「苦難を背負う者」です。
苦難の無い人間には誰も感動しない。
苦難の大きさがイコールでドラマの面白さを決めるのであれば、本作の苦難は巨大です。
上述しましたが、今(21年)のアメリカで最もシビアでナーバスで、話題になるのが差別問題です。
もう初めから苦難が予想されます。
野球というスポーツ物ですが、才能とか強いとか弱いとか、そんな次元ではない苦難が襲い掛かります。
そう、粗筋だけで想像できてしまう人向けの作品です。
本作、画としての刺激物は皆無です。無いです。
盗塁が凄いとか、ホームランが凄いとか、記録が凄いとか、そんな小言は排除されています。
あえて、排除しています。
本作のプロデュース陣が非常に優秀でした。
人種差別のように、大きすぎるテーマを持つ場合、制作陣に言われるまでもなく、この苦難の重みは誰もが既に学習しています。
今、生きている世代で、人種差別を義務教育中に受けなかった世代は皆無です。
90歳を超える世代も学習されています。
ハリウッド映画を観に行ける国では、全員が学習済みです。
だから、いちいち説明しません。
声高に「人種差別は悪い事だ!」とか言いません。
そこが素晴らしかったのですが、ここ、ちょっと難解かもしれないので、分解していきます。
主役は主役以外
はい。本作は「ジャッキー・ロビンソン」の伝記ですが、主役は別にいます。
彼を雇ったオーナー? 彼と共に戦ったチームメイト? 彼を支えた妻?
そう、周囲の全員です。
本作のスポットライトは、周囲の人間達、なんです。
ジャッキー・ロビンソンよりも、周囲の人間達がメインに描かれています。
秀逸だったのが、会長のリッキー(ハリソン・フォード)。
冒頭。シナリオでは「起」と呼ばれるシーン。
ドジャース(球団)のオーナーであるブランチ・リッキーは、スタッフを集めて語ります。
「黒人をスカウトする」
スタッフは猛反対しますが、リッキーは強硬します。
白人のトレードだけでは、戦力補強に限界がある為、黒人リーグから安く選手を補充する、という策です。
リッキーのこの発案こそが、全ての始まりです。
大反対を受けながら、剛腕のリッキーは、これを無理やり達成させていきます。
あくまで、経営判断です。
リッキーは、己の利益の為に、発案したのです。
そして、発案を具現化する為に、黒人リーグの選手を選別します。
ここ、重要。
冒頭で、リッキーは「黒人選別」をしています。
この選別された人の内一人が「サチェル・ペイジ」。
私の最も好きな伝説の黒人投手で、時速179Kmの速球を投げた! とか、野手無しで試合をした! とか、馬鹿げたエピソードを持つ超人です。
後に、40歳を超えてメジャーデビューを果たす化物に、
と言っています。
本当に重要です、ここ。
本作で、最も唸った部分がここ!
リッキーは、経営判断で黒人を雇うと決めたのです。
よく経営判断を「金だけでしか物事を考えていない」と考える方が多いですが、浅いです。
金を生むためには、あらゆる考察が必要とされます。
儲けの旨味は、最先端を行く事にあり、誰もやらなかった事をしなければなりません。
果てが見えない航路に乗り出すのです。
じゃないと、儲かりません。
自身の欲望に付き合わせる相手、それを代理させる人間に「若さ」を求めるのは当然です。
だって、教育できるから。
余計な概念が無いから。
何より、体力があるから。
リッキーは、優秀な選手ではなく、自身の理念を達成できる人材を選びました。
それが、26歳のジャッキー・ロビンソンです。
実績のある名選手ではなく、若すぎるルーキーでもなく、これから実績が積めそうで社会経験もある人間を選びます。
渋い!
これぞ、経営判断!
もう一度……
渋っ!
なんつー大人向け!
この感覚が分かるのって、かなり大人だと思います。とても十代、二十代に向けているとは思えません。管理職経験が無いと、たぶん分からないです。
で、このリッキー。上司の鏡のような人間味があります。
投資した人材を、全力でサポートする。
保身になど走りません。
選手と共に、戦います。
本作では、誰よりも戦ったのはリッキーです。
人種差別という大きな渦に一人の黒人の若者を投げ入れる。でも、その矢面に立ち、全力で支えています。金銭、生活、チームメイトの仲介から、マスコミ対応まで、全てをサポートします。
格好いいジジイだ!
ハリソン・フォード……ジジイ役でも格好いい!
そう。
本作の主役って、この爺さんなんです。
付け足しておくと、この爺さん、足腰が弱いです。台詞などの分かりやすい表現はされませんが、ずっとヨロヨロと歩いています。
これは隠喩で、自身の弱った体を、若い体に代理させている、という表現です。
その罪も分かっているから、身体以外でできる事の全てをサポートしています。
渋っ!
本当は、自分がやるべき仕事だった。でも、体が老いてそれが叶わなくなった。だから、次の世代にそれを託す。託せるだけの「若い」人に、託す。
でも、魂だけは注がせてもらう!
継承してもらう!
人生ですねー。
夢破れた老人から、夢ある若人へバトンが渡される……。
でも、俺もまだまだ現役だからな若造! っと気張る!
共感しかありません。
オジさん世代の大好きなやつ!
かなり男臭のするドラマですが、多くの男性陣に理解と共感を得られるドラマだと思います。
完全に、オジさん向け作品です。
こういうの、書きたい
そう、書きたいんです。
いい年して異世界転生とか、バトルとか、そんなの書いていても仕様が無いので、渋いの書きたいんです。
でも書けないんです。
需要が無いから!
オッサン制作陣がオッサン向けに作る作品なんか、ほぼ皆無で、日本でも月刊少年マガジンとかいうオッサン向け少年誌がありますが、かなりガラパゴスです。
ですが、
人種差別という巨大な苦難と、野球というメジャースポーツ枠があれば、書けるのでは?
ここですね。
この眼の付け処が、さすがハリウッドというところです。
苦難とスポーツでマーケットを取り、その上でやりたい事をする。
非常に合理的。
この合理性があったからこそ、オッサン向けの良作を観させて頂けました!
こんなやり方があるのかーと、感心させられました。
派手な演出もなく、ストーリー内容も既知のものですが、誰かが社会に立ち向かう。
若人と老人がタッグを組み、世の中を変えようとする。
シンプルかつ巨大なロマンを感じさせてくれました。
10年前の作品ですが、今のトレンドとも言える内容になっていますので、遅くないです。
観ましょう!
オジさん世代は観て損はしない名作でしょう。
有名な教訓。
「君はこれまで誰もやっていなかった困難な戦いを始めなければならない。その戦いに勝つには、君は偉大なプレーヤーであるばかりか、立派な紳士でなければならない。仕返しをしない勇気を持つんだ」
この意味合いも、ちゃんと映画で表現されています。
素晴らしい作品でした。