出典 amazon.primevideo
おすすめランク A
こんな人にオススメ ⇒ 本格的なSFを観たい人。SFってこんなのもあるんだー、って知りたい方
| ストーリー | 4 |
| 脚本 | 4 |
| 映像 | 4 |
| キャラクター | 4 |
|
総合評価 ８2点 |
【あらすじ】
ある日、ヨハネスブルクの空に、巨大な宇宙船が現れた。
宇宙船は宙に留まり、攻撃する事も侵略する事もなく、只、佇んでいる。
人類は宇宙船への接触を試み、内部を調査する。
宇宙船に居たのは、栄養失調で今にも息絶えそうな、大量のエイリアン達。
人類はエイリアンを地上へと降ろし、プレハブ小屋で隔離する。
エイリアン、通称《エビ》の隔離地区を、【第９地区】と呼ぶ。
公開当初（2010年）、物凄く話題になった作品で、当時私も映画館で観ました。
衝撃……、というより、嬉しくて涙が出ました。
SF！
これぞ、SF。昭和のSF全盛期を忠実に継承し、現代版にした傑作です。
SF嫌い、苦手な方は多いと思いますが、非常に観やすく作られていますので観て欲しい一作です。
以前「インターステラ―」でも書きましたが、SFには幾つか種類があります。
今回はSFとはなんぞや？ を中心に、ポイントを絞りました。
ｐｏｉｎｔ① 現実社会へのメタファー
ｐｏｉｎｔ② エイリアンの待遇
ｐｏｉｎｔ③ 巧みな構成（キャラクター配置）
最後だけ、いつもの様に構成の話をしますが、基本はＳＦって何？ に添って追っていきます。
ｐｏｉｎｔ① 現実社会へのメタファー
よく使う「メタファー」とういう語句は、直尺で「隠喩」です。隠して、例える。
本作に関しては、物語を通して現実社会に訴えるという意味です。
本作の背景には、今でも世界各国で議論となっている「移民問題」があります。
特に、当時はヨーロッパで盛んにおこなわれており、サッカーＷ杯での「ジダン頭突き事件」が２００６年ですので、正に真っただ中で問われている時期に製作された映画です。（公開2009年）
更に本作ではより顕著に表現されていて、「アパルトヘイト（人種隔離政策）」が制定されています。
隔離されたのは、エイリアン。
人が、エイリアンを激しい差別により隔離します。
これが、メタフォーです。
あくまで作品内では「エイリアン」を隔離差別しますが、これがエイリアンではなく実際の人であった時代もあり、現実的に行われていた政策で、この火種は今でも残っています。
風刺を辛辣に描く事が、本作の目的の一つです。
少し話しを変えますが、ＳＦには幾つか種類があります。
多くの方がこれをＳＦだと思っています。勿論ＳＦです。
先日書評した「インターステラー」などは正にこれで、最新の科学検証で「ブラックホール」を映像化しよう！ が目的です。
ＳＦ小説では、こちらの方が多いです。大半を占めています。
架空の状況下での「社会行動（風刺）」を書いていきます。
ＳＦ三大巨匠「ハインライン」「アシモフ」「クラーク」は特に顕著です。
【ハインライン】月に移民した人類が地球へ戦争をしかけたらどうなる？
はい、こちら
【アシモフ】ロボットを完璧に作り上げ、絶対不可侵の原則を作ったら、どうなる？
はい、こちら
【クラーク】巨大宇宙船が突如空に顕れて、何もしなかったら、人類はどうする？
はい、こちら
「月は無慈悲な夜の女王」は、ガンダム「逆襲のシャア」の元ネタです。
この三大作家は至る所で元ネタに使われているので、一読してみては如何でしょうか？
またレビューは書きます。
物語という仮想空間において、仮想の政治や、仮想の制度、仮想の体験を作り、現実への問いかけをするスタイルです。
ＳＦ全盛期（昭和中期頃）では、社会的な物議を醸す事が多々ありました。
そしてもう一つ
未知の物体、現象、生命と対峙した時、人はどう行動し何を考えるのか？ この個人行動を書きます。
本作も、この作り方を継承しています。
多くの場合は、②「社会行動」と一緒に書きます。
特に多いのが「異星人との遭遇」。
中でも「人と異星人、果てしてどちらが悪なのか？」は頻出で、本作もそれです。
この系統、人によっては、気分が悪くなるほどに「差別」を描きます。
本作も同様です。
人は、徹底的に「エイリアン」を差別します。
なぜ、そうした胸糞悪い展開を選択したのでしょうか？
ｐｏｉｎｔ② エイリアンの待遇
そう、本作のエイリアンは只々虐殺され、罵倒され、実験体にされるだけの存在です。
リドリー・スコットの「エイリアン」とはまるで異なります。
その見た目から「エビ」と蔑称され、容赦なく体罰を受け、エサを撒かれて笑いものにされます。
この辺りで、胸糞悪くなる人も出るかもしれませんね。むしろ、なってください。
最終的に、これは逆転します。
更にこれを、わざと安っぽいドキュメンタリー風の映像で作っています。
徹底的に、人の業を描きます。
徹底的の最たる例が、主人公。
主人公はエイリアンを移住させる責任者に選ばれます。
移住させる過程で、エイリアンを家畜程度にしか認識していない事が克明に描かれます。
同時に、この主人公、普通に良い人だという場面も多く書かれます。
普通に良い人が、只、家畜を別の小屋へ移す職についただけ、としています。
そうです。
誰も悪くないのです。
ですが、胸糞悪いんです。
この書き方は、非常に上手かったです。主人公が悪い役人だったら、只管にムカつくだけですが、良い人なのでなんとも言えない気持ちになります。
そして、主人公が「良い人」だったのには、もう一つ理由があります。
彼は、エイリアンになります。
