honto 講談社プラチナコミックス 発行:講談社
おすすめランク A
こんな人にオススメ ⇒ 怖いの大好き! 怖いの……以外に、なんかない? って人
ストーリー | 4 |
構成 |
4 |
キャラクター | 4 |
恐怖 | 5 |
総合評価 82点 |
【あらすじ】
戦国の頃、三千両の黄金を携えた八人の武者がこの村に落ちのびた。だが、欲に目の眩んだ村人たちは八人を惨殺。その後、不祥の怪異があい次ぎ、以来この村は“八つ墓村”と呼ばれるようになったという――。
大正×年、落人襲撃の首謀者田治見庄左衛門の子孫、要蔵が突然発狂、三十二人の村人を虐殺し、行方不明となる。そして二十数年、謎の連続殺人事件が再びこの村を襲った……。
現代ホラー小説の原点ともいうべき、シリーズ最高傑作!!(引用:アマゾン公式より)
映画「犬鳴村」がTV放送されるらしく、キーワードに上がっていました。
廃村系の都市伝説では「犬鳴村」は有名どころですね。
これ↓
ではこの都市伝説、いつから、どうやって、誰のアイディアで生まれたのでしょうか?
んなの勿論、
横溝正史!
八つ墓村!
あながち強引な結びつきでは無いはず。
「八つ墓村」のヒットが無ければ、この都市伝説は生まれなかった可能性が高いです。
散々に影響を受けた本作、3つのポイントに絞り分解解説していきます。
では、参ります。
いざ、横溝正史ワールドへ。
ポイント① 書き出しの、凄み!
小説に限らず、シナリオにおいての最重要は「書き出し」です。
オチがどうの、推理がどうの、盛り上がりがどうの、深掘りがどうの……。
んなの、10%の存在です。
90%は、書き出しで決まります。
後から巻き返そうなんて片腹痛い。
最序盤で全てが決まります。
ハリウッドなどがストーリーなんか関係なくインパクトの強いシーンを冒頭に持ってくるのは、商売として売る為の合理的判断なんです。
初めのインパクトが、ストーリー全体を支配します。
傑作が、本作。
まず次の二つ怪談が、プロローグ的に書かれます。
戦国時代、尼子氏の家来だった侍達は、敵対する毛利氏から逃れる為、金銀財宝を持って逃亡。
鳥取県と岡山県の県境にある村へと逃げ延びる。しばらくは手厚く歓迎されるも、財宝に目がくらんだ村人に、侍達は惨殺される。
そこで、侍大将はある呪詛を残す。
「七代末まで、祟ってやる」
岡山県のある村に、酷く気性の荒い地主が居た。人は彼を狂人とした。狂人はある女を娶り、執拗なまでに愛した。しかし女には、他に惚れた男が居た。度重なる狂気的な暴行により、ついに女は男の元を離れ、姿をくらませた。
憤怒する狂人は、村人を三十二人殺害し、山へと消えた。
この二つです。
これだけが書かれます。
こんな狂気的な都市伝説が、事実として、ある一つの村で起きているという、圧倒的な恐怖感を読者に刷り込みます。
その上で、主人公の登場。
彼は「姿をくらませた女」の、息子です。
そんな彼が、村へと戻る事になる……。
ここから、物語が始まります。
すご!
身震いしました!
正直、一つ目の怪談は知りませんが、尼子氏、毛利氏は鳥取県出身の私には馴染み深い大名ですので、親身になれました。
「七代末まで祟る」とか、怖すぎます。
二つ目の怪談は有名で、怪談ではなく実際の事件をベースにされています。
「津山事件」です。
ある狂った男が、村人を三十人殺した事件。津山は岡山県ですので、違うことなく、この事件がベースです。
こうした恐怖の事件が、二つ提示されます。
提示された以上、交差するはずです。
そして主人公は、逃亡者の息子。
都会(神戸)へ逃げた女の息子が、世間から隔離された村へと戻るというのも、恐怖演出の最たるものです。
どれだけ詰め込むんや!
恐怖を二重、三重、四重にも積み重ねています。
恐怖だけではなく、この主人公に後々悪い事が降りかかってくる未来も容易に想像させます。
傑作です!
もう、この時点で、傑作確定です。
小説読むのが面倒くさい、そこの貴方!
ここだけでも読んで下さい!
二十分かからないです。
たったそれだけの時間で、人生変えられるほどの衝撃があります。
恐怖と無数の情報だけをごちゃごちゃと詰め込まれ、おかしくなりそうな眩暈を覚えるはずです。
ミステリィ特有の「序盤が良く分からない」を、逆手に取った名文だったと思います。
ポイント② 冒険活劇!
そんな「ごちゃごちゃ感+恐怖」だけが、本作の見所ではありません。
たっぷりと恐怖を作った後は、緊張感が作品を支配します。
本作の主人公はまともな人間ですが、「村」が狂っています。
この辺りの作り方が「犬鳴村」の原作といえます。
かつてシャーロック・ホームズは(基、コナン・ドイルは)
と、言いました。
ホームズの理由としては、「人目による制御が無いから」ですが、日本的な思想ではここへもう一つ倫理観が加わります。
田舎特有の、傾倒した連帯感。
田舎と都会、どちらにも居た私としては、この考え方自体が差別感丸出しで好きではないですが、現在でもそう思っている人は多いはずです。
田舎は、しがらみが多い。
って。
確かに多いです。
ですが、「都会の柵(しがらみ)」も大概なので、「田舎」に限定するのは差別的で好きではないです。
そんな風に、この主人公も思っていました。
ですが、いざ帰郷してみると、その村には異変ばかりでした。
「なんなんだこの村は!」
狂気の伝説を二つも持つ、狂気の村を、主人公が探索していく。
これが、中盤以降の作品構造です。
めっちゃ面白い!
本作、映画の「タタりじゃああああ」が有名すぎて、ホラー作品だと思っている、そこの貴方!
「金田一シリーズ」だから、頭を使うミステリィ作品だと思っている、そこの貴方!
違います。
冒険活劇です!
主人公目線で、恐怖の村を探索していく物語なのです。
この様に、どれだけ詰め込んでんだ!
ってほどに、色々な要素が目まぐるしく詰め込まれています。
これだけのものを作品に詰め込んで、なんでパンクしないの?
って思いました。
考察しました。
ガチ勢は、結局ここに行きつきました。
ポイント③ キャラクターこそ、エンタメ
結局、ココ!
皆様、八つ墓村と言えば
「タタリじゃあああ」
だと思います。小説でも「狂った婆」として記載されています。
この祟り婆さんも含め、キャラクターがとても良く立っています。
主人公も、その彼女になる?女も、姉さんも、その他の住民も、みんな丁寧に描かれており、背景説明まできっちりと書かれています。
狂気という派手な演出の裏で、きっちりと人物を書いています。
だから、メリハリのついた素晴らしい作品となりました。
横溝正史作品といえば「金田一耕助」ですが、これが結びつかない人って多いはずです。
と聞いて、答えられる人はかなり少ないです。
もう一個
これも答えられる人は少ないです。
どちらも「金田一」シリーズですが、「タタリ」「沼から生える足」の方が有名で、誰もがそちらを想起します。
ですが、
ですが!
小説を読むと、金田一耕助が「探偵役」である理由が分かります。
当たり障りのないキャラクターで、
「俺様が探偵だ!」
と豪語して、茶を濁すような事はしないキャラなんです。
魅せることろは魅せる。締めるところは締める。
それを弁えたキャラクターとして、入念に作り込まれています。
もっと言います。
ミステリィの主役は、探偵ではない!
推理でもない!
それを決定づけ、今でも尚主流の「人間ドラマ&サスペンス」の礎を築いた作家こそ横溝正史。
その代表作が本作「八つ墓村」なのです。